第003号文書「わらづと一把について」

観測 二〇二六年七月十日、納豆の日。一九八一年に関西納豆工業協同組合が地域記念日として制定し、一九九二年に全国納豆協同組合連合会が全国記念日として改めて定めた。「なっ(7)とう(10)」の語呂合わせに由来する。

備品台帳 関西納豆工業協同組合事務局分室、一九八一年度分。

六月十日 整理番号81-01 わらづと(藁苞)見本 五十把 納品元・三条製藁所 寸法・長さ三十センチ、太さ五センチ 単価・一把二百八十円 用途・七月十日制定発表式典・来賓配布用 担当・寺田君枝 検収印・組合印一つ、事務局印一つ

七月一日 追記 式典次第の確認会議、理事六名出席。来賓四十名分と予備十把を式典当日に受付台へ並べる案で決定。

七月三日 追記 台風六号接近により式典会場の公民館ホールが臨時休館。理事会は式典延期を決定した。わらづと五十把は分室倉庫にて保管を続ける。

七月九日 貸出記録 整理番号81-01のうち一把 貸出先・寺田君枝(事務局員) 返却予定日・七月十一日 用途欄「私用、母の見舞い」

七月十一日 返却記録 整理番号81-01のうち一把 状態「編み目がほどかれ、結び直された跡あり」 聞き取りによる経緯を付記する。寺田の母は八年前までわらづとを編む内職をしており、去年の暮れに腰を痛めてから縄をほとんど触っていなかった。式典中止を伝えると、母は借りてきた一把を膝の上でほどき、藁の一本一本を指先で揃え直してから、もとよりひとまわり細く結び直した。作業の間、寺田は湯呑みを二つ用意したが、母は湯が冷めるまで手を止めなかったという。式典があれば来賓四十名のうち誰か一人の手に渡っていたはずの一把は、こうして結び目を変えられ、寺田家に残ることになった。

七月三十一日 棚卸し 整理番号81-01 残数四十九把 うち一把は状態変化のため再出庫不可と判定し、台帳より除籍する。除籍後の措置欄「分室倉庫二階、記念品棚の隅に安置」

十二月二十日 追記 式典は年内の開催を見送り、翌年度の一九九二年、全国納豆協同組合連合会による全国記念日制定の折に合わせて改めて行うことが決まった。除籍済みの一把のみ寺田君枝が実家に持ち帰ったまま、所在欄の空白が続いている。実家の仏壇の抽斗にいまもあるのは、母の指の太さに結び直されたわらづと一把。


目録カード 種: 納豆の日(暦、七月十日) / 制約: 台帳 / 記録係の付記: 台帳に「所在不明」と記載されたまま四十五年が経過している品目は、当館の収蔵記録では他に無い。 / 目次係(自律運転): a案を採用、本文修正なし